「共通番号(マイナンバー)制度を粉砕しよう

「共通番号(マイナンバー)制度」を粉砕しよう


世田谷地区労事務局長・全労交呼びかけ人

                                           根本善之


「マイナンバー」とは?!問題が次々と顕在化


 「共通番号(マイナンバー)制度」は、この10月に、住民登録している日本人と在留外国人に12ケタの個人番号を付番し、「通知カード」を世帯単位に送付することで始まることになる。2016年1月には、希望者にICチップ内臓・顔写真つきの「個人番号カード」が交付される。就職・手当や年金の受給、税務署への申告など社会生活の場面で番号の記入が求められ、本人確認・番号確認のための「個人番号カード」の提示が義務化される。2017年1月から、「情報提供ネットワークシステム」が始まり、7月から、世帯情報や税額、福祉の受給状況など個人情報が様々な行政機関に提供される。

 この「マイナンバー制度」は、全ての住民登録者への付番と個人情報を共有する「情報提供ネットワークシステム」の新設・整備、そして「個人番号カード」の交付と提示によって構成される。

 「マイナンバー」という「共通番号」でバラバラだった行政機関や民間事業者が保有するさまざまな個人情報を「ヨコ」につなげて全て閲覧可能にし、「タテ」につなぐことで生涯にわたり追跡可能となる。個人情報が行政や企業からも丸見えになることから、国民総背番号制度といわれてきた。

 「マイナンバー制度」は、民主党政権が「社会保障と税の一体改革」として導入を決めたが、解散・総選挙の敗北で廃案となった。しかし、自民党政権が民間利用の拡大を盛り込んだ同「法」案を、2013年5月成立させた。

 政府は「マイナンバー制度」を税・社会保障・災害の事務で利用し、「社会保障・税制度の効率化・透明性を高め、国民の利便性(手続きの簡素化など)の高い公平公正な社会を実現する」としてきた。しかし、この「制度」によって、私たちの個人情報の全てが一元的に管理され、共有―監視されるという、新しい社会が始まろうとしている。

 個人情報の全てが管理されることから、プライバシーを侵害し、医療・福祉の受給抑制、削減をねらうものだ。住民登録できない、してない人をサービスから排除し、世帯単位の「通知カード」の送付でDV等被害を助長し、個人情報の「なりすまし」による犯罪を助長するなどの危険性をはらんでいる。

 実施準備が具体化するとともに、次のような問題が次々明らかになっています。


1、治安管理に利用


 「マイナンバー」の利用は、法律に定めたものに限定し、利用状況は、「個人情報保護委員会」でチェックするとともに、マイポータルという個人サイトで自分の利用状況を把握できるようにする―と説明されてきた。

 ところが、同法19条12号では、刑事事件や「その他政令で定める公益上の必要があるとき」に個人情報の提供利用を認める―となっている。2014年2月の政令案では、破防法、暴対法、組対法、オウム規制法など治安立法26項目に提供利用を認めているのだ。こうした警察への提供利用は、「個人情報保護委員会」のチェックの対象外で、マイポータルでも調べることができない。


2、福祉受給者への監視と抑制に利用


 生活保護法は、2013年の「改正」で不正対策名目の福祉事務所の調査権限や受給者の健康管理義務、扶養義務調査が強化されたが、これらの調査にも「マイナンバー」が使われる。

 2014年8月の利用事務を定めた省令案では、「障がい者・母子世帯・高齢者などの給付資格確認等」にマイナンバーが使われる。精神保健福祉法による強制措置入院や学生支援機構の奨学金の債権回収の利用も入っている。2014年6月18日付の日経新聞が「共通番号で医療費抑制、マイナンバーで投薬など管理」と報じるなど、福祉対象者管理と福祉抑制での利用が明らかになっている。


3、DVやストーカー被害者は?


 「マイナンバー制度」は、「住基ネット」をもととすることから、住民票のない人やDV・ストーカー被害から住民登録地と異なる場所で生活せざるをえない人が把握できず、「サービス提供」は不可能となる。

 DVやストーカー被害者の転居先の住所が漏れて、重大事件も再三、起きている。マイナンバー制度で全国の広範な機関に最新の住民情報を提供していることから、漏えいの危険も増大する。さらに、全住民登録者に「通知カード」が世帯単位で送付されることから、DV等の加害者に渡る危険性も否定できない。

 しかし、政府は、登録できない事情への配慮も行なわないばかりか、事情をかかえている区民の情報提供を止める規定も作られていない。「通知カード」の送付がせまっているにもかかわらず、被害者保護の規定を作ろうともしていない。


4、2015年10月施行で自治体は?


 市区町村は、世帯情報・税情報や福祉受給情報などを「マイナンバー制度」に提供することになり、そのため各自治体は、システムの改修や条例の改定、「個人情報保護評価」の実施が必要となるのだが、政府の政省令の公布やシステムの開発が大幅に遅れ、自治体の準備に支障が出ている。システム改修の政府の補助も不十分で、実施に向けた職員の配置を含めた自治体の負担は少なくない。

 「マイナンバー制度」が自治体の事務効率化や住民サービス向上になるのかは明らかではない。


〈参考資料〉


 このまま「マイナンバー」をスタートしてよいのか?

「制度」スタート前に利用拡大と情報流出!


 「マイナンバー制度」の10月実施が迫っている。内閣府の2月世論調査でも「マイナンバー制度」を知っている人は3割を切り、政府はあわててPRを始めた。しかし、政府の省令整備も自治体の準備も民間事業者の対応も遅れている。PRもマイナンバーの「メリット」を宣伝するだけなのであるが、内閣府調査は8割以上の人が漏えいや不正利用、国による個人情報の管理・監視に不安を感じていると答えている。

 安倍政権は、今国会に、預貯金口座と特定健診データにも付番をつける等、「マイナンバー」利用の拡大と「個人情報保護法改正」の一体「法」案を上程、4月23日、審議入りしている。2年前の同法案審議時には、医療情報や預貯金がプライバシー性が高いので「ひもをつけない」と約束。利用が除かれたにもかかわらず、施行もしていないうちに利用拡大するというとんでもない「改正法案」だ。

 また、6月1日、日本年金機構がサイバー攻撃を受け、125万件にもおよぶ基礎年金情報の流出が明らかになっている。東京新聞によれば、厚労省が実施機関となり、公的年金業務の「保護評価」が行なわれたという。「評価書」は「保護委」が了承し、3月に公表された。「保護委」の公表した内容では、「情報の漏えいの技術的対策について、十分行なっている」「不正プログラムを検知し、駆除または隔離を行なうソフトウェアを導入している」と記している。

 しかし、現実に漏えいが起き、「マイナンバー制度」の屋台骨である「保護評価」そのものの実効性が問われているのだ。

 「共通番号いらないネット」が6月8日、緊急記者会見を開き、共同代表の白石氏が「流出は当然起こり得る。だから官民共通分野の番号制度は危険なのだ」、原田氏が「原発の安全神話と同じ。情報漏えい時の対処をあいまいにしたまま共通番号制度をスタートさせてはならない」と「マイナンバー制度」の問題を指摘している。「いらないネット」は、流出事件の解明と「マイナンバー法改正」案の廃案、「マイナンバー制度」制度導入スケジュールの延期、そして「マイナンバー制度」そのもの再検討を求めている。


「国民総背番号制=住基ネットに反対する世田谷の会」が保坂区長に提出した「共通番号制度の要望書」


(1)番号制度の利用は慎重に。当面、現行の住基カード以上の独自利用は行なわず、番号制度の実施状況・区民の意見を聞きつつ、利用の検討を進めよ。

(2)区民が個人情報の利用をコントロールできるように。

 1)利用・提供の本人選択を認めるよう国に求め、区としても検討を。

 2)警察等の利用中止を国に求めるとともに、区としても対策の検討を。

(3)DVやストーカー等の被害につながらないための措置を。

 1)情報連携の際は必ず区が提供の判断するようにし、被害者の住民情報を提供しない措置の検討を。

 2)通知カードが確実に本人に渡る送付方法を示せ。

(4)個人番号カードについて。

 1)個人番号カードの普及は慎重に。

 2)区発行カードの一体化はせず、個人番号カードの任意交付の原則を守ること。

 3)住基カードの不正取得の状況を明らかにし、不正利用の対案を示せ。

 4)個人番号カード発行の地方公共団体情報システム機構へ委託しないで。

(5)住基ネットを基礎とした番号制度と住民票がない区民への対応。

 1)住民登録のない区民へのサービス提供の方法を明らかにせよ。

 2)旧外国人登録者で住民票が作成されない在留外国人の人数と、どのようにサービス提供しているか明らかにせよ。

(6)番号制度の費用対効果を明らかにせよ。

 1)番号制度を利用しなければ実現できない事務を明らかにせよ。

 2)番号制度関連の平成26年度予算と27年度予算額は。今後かかる費用は。

 3)予算及び今後の経費負担の内、国の補助金と区の負担額を明示せよ。

(7)区行政内の情報連携で番号制度を利用しないで。

 1)区の情報システムでどのように番号制度を活用するのか、明らかにせよ。

 2)番号制度具申には条例制定などの負担が大きい。それでも利用するメリットを明らかにせよ。

(8)不正アクセスや漏えいの危険がある中間サーバーの共同化を利用しないで。

(9)マイ・ポータルの利用は慎重に検討を。

 1)利用できない人への情報提供や権利保障をどうするか明らかにせよ。

 2)マイ・ポータルからの情報漏えいや不正利用の防止策を明らかにせよ。

 3)「ワンストップ・サービス」「プッシュ型サービス」を区民がその必要性を感じているか否かの調査を行なえ。

(10)特定個人情報保護評価と区民への周知と意見募集について。

 1)制度開始時に、総ての利用事務についてパブコメの実施を。

 2)評価実施までに、番号がどのように使われるのかわかりやすく周知を。

 3)利用事務の対象となる区民に制度の説明と意見を求めよ。

(11)実施の延期を国に要望し、区は個人情報保護措置の検討を。

 1)区の十分な検討と区民の意見反映を保障せよ。

 2)今までの個人情報保護の取組みを踏まえた独自の保護措置を検討せよ。

 3)条例改正は個人情報保護審議会への報告で済ませず、諮問し検討して行なえ。

 4)区民への説明と積極的な情報公開を行ない、話し合いの場を設けよ。


〈参考資料2〉「国民総背番号制=住基ネットに反対する世田谷の会」が世田谷区長に提出した審議会「具申」の実現に向けた「要望書」


世田谷の会が世田谷区長に審議会「具申」の実現に向けた「要望書」を提出

実施に向け一定の前進の回答


(1)審議会3・23答申を受けた区の対応について。

 1)区のセキュリティ対策だけでなく、個人情報保護措置の検討、実施と国等への要望等に積極的に取り組め。

 2)区の情報セキュリティ対策の見直しについて、これまでの住基ネットのセキュリティ対策に基づく条例による保護措置を後退させることなく、充実を。

 3)集約化・共同化により国(地方自治団体情報システム機構)と自治体の間で責任が曖昧になっている中間サーバーについて、審議会答申の指摘を踏まえた対策を講じろ。

〈答申の指摘事項〉

①中間サーバーの中身が決定していない段階では、情報漏えいの危険性を払拭できない

②自治体が対応できる環境になるまで制度実施を保留または延期するよう国に働きかける③中間サーバーの安全性に疑義が生じた場合は、マイナンバーの利用停止など根幹に遡って議論し直す。


(2)世田谷の会の要望書で未解決事項について。

 1)区民が自らの個人情報の利用をコントロールできるようにせよ。

 2)DVやストーカー等の被害につながらないための措置を明らかにせよ。

①被害者の住民情報を提供しない措置の検討を求めたが、「法令に則り運用する」との回答だが。

②通知カードが確実に本人に送付される方法について、「適切に対応する」との回答だが、10月の通知が迫っている。

 3)個人番号カードの交付・利用は慎重に進めよ。

①審議会答申で指摘されたなりすまし被害の実態調査や防止対策を検討せよ

②カード発行は地方公共団体情報システム機構へ委任。委任の顔写真データなど個人情報がどのように管理され、それを区がどのように確認するのか、明らかにせよ。

③個人番号カードの区独自利用は慎重に進めよ。

 4)住民票がない人等への行政サービスの提供について従来と変わりなく必要なサービスは提供するとしている。区としてどのような措置をとるのか。

 5)番号制度の費用対効果を明らかにせよ。

①番号制度導入と運用にかかる区の経費と、国の補助金と区負担の内訳は。

②番号制度によって世田谷区で削減される経費を明らかにせよ。

 6)不正アクセスや漏えいの危険がある中間サーバーの共同化を利用しないで。

 区は、国の責任で技術的セキュリティ対策が講じられている。審議会答申は区として責任ある対応を求めている。

 7)マイ・ポータルの利用は慎重に検討を

 現在、国の方で検討中で、区は国の動向を把握し有効活用を図っていくとしている。

 利用できない人への情報提供や権利保障、漏えいや不正利用の危険性が指摘されている。。問題点に対する区の対策を明らかにし、対策がとられるまでは区の独自利用はやめよ。 8)実施の延期を国に要望し、区として個人情報保護措置を検討せよ。

 区は法に則り準備を進め、独自の個人情報保護措置について研究していくとしている。①不全な周知と区の対策の検討のため、実施の延期を国に要望せよ。

②条例改正にあたっては、独自利用は最小限にとどめ、個人情報の外部オンライン提供を原則禁止する規定を維持せよ。

③広報に、番号制度の危険性が伝わる内容にせよ。

④区民からの苦情、通報、意見に区として責任をもって対応する窓口の整備を。

⑤区民への説明と積極的な情報公開を行ない、話し合いの場をもて。