世田谷地区労事務局長・全労交呼びかけ人 根本善之氏

「官製ワーキング・プア」を許さぬ地域労働運動の報告
「官製ワーキング・プア」を許さぬ地域労働運動の報告

世田谷地区労事務局長・全労交呼びかけ人 根本善之氏

 

 皆さんご苦労様です。この間の地域での取り組みを報告し、2016年春闘をともに闘う提起をします。今日、皆さんに報告するのは、世田谷区でできた「公契約条例」について、この間の経過を含めて報告をしていきます。世田谷区の「公契約条例」に基づいて、世田谷区が発注する工事、委託などの労働報酬の下限額を決める「公契約適正化委員会」が作られ、2015年12月28日に中間報告をまとめて保坂区長に提出されました。「労働報酬専門委員会」と、その下に作られた専門部会は、下限額について、予定価格3000万円以上の工事請負は、「公共工事設計労務単価」の85パーセントに、予定価格2000万円以上の委託契約については、区職員の高卒初任給を換算した時間単価・1093円という内容の中間報告にまとめ、世田谷区が初めて区長に下限額の報告をしました。 世田谷区の「公契約条例」については、去年も報告しましたが、2014年の9月に条例が制定され、2015年の4月に施行されました。この条例については、地域の労働組合の団体である「東京土建世田谷支部」(組合員5600人)、「建設ユニオン世田谷支部」(組合員900人)、「世田谷区職労」(5200人)、私が事務局長をやっている「世田谷地区労」(加盟組合23組合)、こういう労働組合が「官製ワーキング・プアをなくす。生み出すことがあってはならない」と10年前に「公契約推進世田谷懇談会」を作り、地域労働運動の共通の課題として「公契約条例」を制定させようという取り組みを行なってきました。すでに全国では、野田市をはじめ、いくつかの自治体で条例が施行されていますが、世田谷については地域の労働運動として実現させていこうという取り組みを進めてきました。

 この間、「公契約条例」に基づいて条例が実施されて以降、3回の「公契約適正化委員会」と4回の「労働報酬専門部会」が開かれ、その内容については次のようにまとめられました。「労働報酬下限額」については、「労働の対価としては、適確性の強い『勘案基準度』が必要であり、平均単価がより少し上に行った部分で設定すべきだ」「区内経済活動の振興、活性化のために世田谷区内の賃金相場を絶対下がってはならない」「入札予定価格や落札率を上げることによって、労働者に夢を与えられる金額にすべきだ」。現行では世田谷区ではペナルティを課していませんが、守られなければ罰則を将来的には考えていくべきだという論議がされています。特に「労働報酬下限額」については、「官製ワーキング・プアを世田谷区から生み出すことは避けるべきであり、そうでなければ『公契約条例』を作った意味がなくなる」という指摘をしています。さらに、「公共工事設計労務単価」には社会保険の経費も積算されている。中間報告では、その加入率が東京都は32パーセントで全国最下位、全国平均では70パーセントに達しているが、東京では32パーセントしかいってない。発注する自治体側は法定福利費については予算措置をしている、事業所が社会保険加入が少ないというような歪みが現れている。それの解決に向けた動きが必要であると提唱し、改善を求めています。また、労働者の報酬ではなく、事業者の利益や区民の理解を得ることが課題になっています。納税者、事業者、労働者が納得できるラインを改善していかねばならないという指摘もされています。

 世田谷区の保坂区長は、中間報告を受けて2016年度の予算について、今、第1回の区議会が開催されていますが、それに合わせてこの中間報告を「設計労務単価」については同じにし、委託については1093円を950円にするという非常な暴挙を行なってきました。こうしたことに対して、地域の組合で作る対策委員会では「公契約推進委員会」としては、何度も要請と抗議をしました。そのことを区議会に報告し、来年度の予算に上げたという状況になっています。

 今後、私たちとしては4月15日に第8回目の「公契約条例」のパネルディスカッションを開いて、これからどのようにして労働者の賃金を上げてゆくか、「設計労務単価」に近い賃金に上げてゆくか、これを進めるべく準備をしています。この「公契約条例」は、、第1条に「区が発注する工事、委託業務に携わる労働者の賃金をはじめ、適正な労働条件を確保し、事業者の経営の改善、公契約にかかわる業務の質の確保、区内産業の振興、地域経済の活性化、区民生活の安心・安全、福利の増進等」をかかげています。そして、何よりも「公契約条例」を豊かな生活のために実効あるものとして運用してゆくことが求められており、一方的に委託などの賃金を抑えることは不当だということで今後取り組みを進めていき、「公契約条例」で不利益・不都合にならないように、条例に目的に沿うように今後も委員会活動の活性化を求めて行きたいと思っています。また、「公契約条例」を支える地域の労働組合運動の活性化させることも今後取り組んでいくことを明らかにして報告とします。