特集「世界大恐慌爆発情勢下の世界の労働運動」

  政府の緊縮政策に反対するデモ(4月7日アテネ)
  政府の緊縮政策に反対するデモ(4月7日アテネ)

特集「世界大恐慌爆発情勢下の世界の労働運動」

 

ギリシャ

 

 ギリシャでは、昨年1月に「債務返済拒否」「緊縮財政政策の中止」を掲げた「急進左派連合」(SYRIZA)が政権の座に就いた。しかし、SYRIZA党首から首相に就任したチプラスは、欧州連合(EU)側に譲歩する姿勢に転じた。2016年、ギリシャ労働者は、チプラスが打ち出す年金保険料の引き上げ、所得税増税、港湾の売却と民営化―解雇攻撃に、ゼネストで対決して闘っている。

 2016年のギリシャ労働者のゼネスト決起は、1月27日、船員組合の48時間ストから始まった。チプラス政権が計画している「年金改革」の内容は、年金保険料を月収の20パーセントに引き上げるというものだ。ストに決起した船員組合は、「この国で最も古くからあるわれわれの基本年金基金の廃止を許さない」と、2月の法案上程を策動するチプラスに対する闘いをさらに強化すると宣言した。また、農民は、チプラスによる農業減税の削減に抗議して全国で高速道路の封鎖を闘い、共に闘う意志表明としてアテネの労働者居住地区で50トンの農作物を配布した。

 2月4日には、ギリシャ最大の公務員労組である「ギリシャ公務員連合」(ADEDY)と民間部門の最大労組である「ギリシャ労働総同盟」(GSEE)が24時間ストを闘い、4月7日には、ADEDYが再度の24時間ストを闘い、チプラスの「改革案」上程阻止を闘った。

 チプラスは、EUからの金融支援を引き出すために、財政再建策の一環として国有資産の売却を進めている。4月8日には、アテネ近郊にある同国最大のピレウス港を中国に売却することを決め、中国海運大手の中国遠洋運輸集団(コスコ・グループ)との契約に調印した。港湾の民営化によって、解雇と賃下げが強まるのは明らかだ。

 5月6日、ADEDYとGSEEがチプラスの「改革案」に反対して48時間のゼネストを闘うなか、5月8日、ギリシャ議会は、「年金改革」と所得税増税について可決した。だが、「国際通貨基金」(IMF)やドイツなどで構成するギリシャへの国際債権団は、ギリシャの国内総生産(GDP)の3パーセントにあたる約54億ユーロ(約6600億円)に及ぶ緊縮措置に満足せず、さらにGDP2パーセント相当の緊縮措置を取ることを要求した。これをうけて、5月18日、チプラスは、さらに増税や銀行の不良債権売却規制の緩和などを盛り込んだ「改革法案」を議会に提出した。「改革法案」は、付加価値税(VAT)を現行の23パーセントから24パーセントに引き上げ、燃料・タバコへの増税、銀行の不良債権売却手続きや民営化基金の創設が含まれている。チプラスは、これによってGDP1パーセント分にあたる約18億ユーロの歳入増を実現しようと狙っている。

 これに対して、チプラスによる際限なき攻撃に怒り、港湾民営化による解雇攻撃に直面する港湾労働者は、波状ストを闘い、「仕事の保証が約束されない限り、仕事に復帰しない」と闘いぬいている。9月27日、ギリシャ議会は、年金支出の削減や民営化加速に向けた「改革法案」を可決した。ギリシャ労働者は、チプラス率いる政権与党・SYRIZAとの対決を鮮明にして闘いぬいている。

  労働法制改悪に反対するデモ(3月9日パリ)
  労働法制改悪に反対するデモ(3月9日パリ)

フランス

 

 フランスでは、オランド政権が2015年、解雇手続きの簡略化や長時間労働を容認する「経済の成長と活性のための法律案(通称「マクロン法」)」を強行採決させたことにつづき、労働法制の大改悪攻撃をかけてきている。今回の労働法制改悪(通称「エル・コムリ法案」―労働大臣の名前をとったもの)は、労働組合との労働協約よりも就業規則を法律上優位に置くというものである。つまり、経営者が組合を無視して就業規則を改定・規定することで解雇、労働時間の延長、残業手当の削減、労働強化など、基本的な労働条件を労働者諸個人に強制することができるようにするものだ。労働法制の改悪による労働組合の解体、労働者の階級的団結の破壊を狙ったものだ。

 フランスは、経済の低迷や高い失業率が続いている。EU・欧州委員会が加盟国の財政基準として定めている「財政赤字が国内総生産(GDP)比で3パーセント未満」を達成できておらず〝違反状態〟だ。

 オランド政権は、昨年11月の「イスラム国」による武装襲撃に対して非常事態を宣言し、延長を繰り返している。非常事態宣言下では、①令状なしの家宅捜査(夜間も含む)、②「不審人物」の自宅軟禁、③デモの禁止、④警察官の発砲の権限の拡大、⑤「テロリスト」の嫌疑による国籍剥奪(フランスには二重国籍者が400万人居住している)を強行している。こうしたオランドの強権発動に労働者・学生が怒りを高まらせてきた。

 また、オランド政権は、2012年にサルコジ保守党政権に代わって登場して以来、フランス経団連(MEDEF)の要求に応じ、「日曜労働の許可」、付加価値税増税、家族手当の減額、年金保険料の引き上げ、5億ユーロの社会保障費削減、5000万ユーロの企業減税などを行なってきた。

 今回の労働法制改悪は、失業率が10パーセントを超え、18歳~24歳の青年層の失業率が24パーセントに及び、「非正規雇用」の拡大とともに貧困が広がり、青年層の大半が低賃金・無権利で働いている状況をさらに悪化させる攻撃だ。これに対して、青年たちは、口々に「こんな法案では、私たちの未来はさらに大変なことになる」「職場に入れても、会社の言いなりにさせられてしまう」「長時間働かされ、しかも、いつ首になるかも知れない」と語り、プラカードや横断幕には「若者は怒っている」「高校生・大学生は、労働者と団結して闘おう」「未来を決めるのは私たちだ」などと書いて闘いに決起した。

 闘いは、3月9日に50万人が起ち上がった第1回総決起以降、毎週闘われ、3月31日には、120万人が集会・デモ、ストライキに決起した。3月31日のストライキを闘ったのは、パリ交通(地下鉄・バス)、国鉄、フランス・ガス、フランス電力、エールフランス、その他の公共部門、商店、新聞社、港湾、カジノなど広範な部門の労働者であり、これに連帯して、全国200の高校がバリケードで封鎖された。大学生も「68年5月革命」の拠点=パリ・ソルボンヌ大学などで大学当局の弾圧を粉砕して大学封鎖を闘っている。

 さらに、闘いは、5月に入って拡大し、5月19日の鉄道、航空、空港、港湾、長距離トラック輸送の労働者のスト、5月25日の製油所のストと石油貯蔵所前の道路封鎖、5月26日の原発19ヵ所のうちの16ヵ所で電力労働者のストが闘われた。フランス全土の主要幹線道路がストップし、ガソリンスタンドの20パーセント~30パーセントが業務を停止し、スーパーマーケットが停電した。代表的日刊紙・「ルモンド」は、5月25日、「明日の新聞はストのため印刷できません」という社告を出した。追いつめられたオランド政権は、「共和国保安隊」=内閣直属の機動隊を出動させ、製油所・貯蔵所の封鎖解除に乗り出している。 この闘いに対して社会党系の「フランス民主労働総同盟」(CFDT)はオランド支持を打ち出し、共産党系の「労働総同盟」(CGT)は、当初闘いの拡大に消極的だったが、若者を中心とする闘いの高揚に突き動かされ、オランド政権との全面対決に転換した。有力週刊誌は、「CGTが階級闘争を復活させた」という大見出しを掲げた。

 

ドイツ

 

 ドイツでは、「金属産業労組(IGメタル)」が5月13日、使用者団体の「ゲザムトメタル」と14時間にわたる交渉の末、4・8パーセント二段階賃上げで合意した。この合意内容は金属・電機産業で働く労働者380万人に波及する。

 ドイツ連邦統計局が発表した2015年の国内実質賃金は、前年比2・5パーセント増と、2008年の統計開始以降で最大の伸びを記録した。ドイツ連邦銀行は、2016年の実質GDP成長率を1・8パーセントと予測しており、個人消費が経済成長の原動力になっていると分析している。こうした好況を背景に、「IGメタル」は、当初、一年間で5・0パーセントの賃上げを要求したが、「ゲザムトメタル」は2年間で2・1パーセントの賃上げを提案し、両者の主張には大きな開きがあった。その結果、交渉は難航し、「IGメタル」は4月29日から各地で警告ストを実施し、妥結しない場合は、5月16日から無期限ストに入る構えを見せていた。

 また、「統一サービス産業労組(ベルディ)」が、地方自治体(州以外)の公務員の賃上げをめぐって連邦政府と交渉を続けていたが、4月末の交渉のすえ、4・75パーセントの二段階値上げで妥結した。「ベルディ」の妥結が追い風となり、「IGメタル」も5回目の交渉で妥結に至った。妥結結果は、4月~6月の間に150ユーロの一時金支給、7月に2・8パーセントの賃上げ、その後2017年4月に2・0パーセントの賃上げが予定されている。

 今回の「IGメタル」と「ゲザムトメタル」との協約には「差異化条項」が盛り込まれている。これについて、労働者の賃金低下の危険性や、産別協約の拘束力低下を懸念する声が上がっている。「差異化条項」は、各企業の収益状況に応じて、一時金支払いの中止や延期を認めており、2回目の賃上げも最大3カ月先までの延期が可能だ。使用者側は、この条項を「非常に画期的」と高く評価しているが、こうした産業別協約から個別企業の逸脱を認める動きは、今後も加速する可能性が高いことが指摘されている。

 4月23日には、ハノーバーで欧州と米帝との間で交渉が進められている「大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定」(TTIP)反対のデモが9万人の結集で闘われた。

 11月に入り、航空大手のルフトハンザ航空のパイロット労働組合が、賃金の引き上げなどをめぐり、23日からストライキを続けている。

 「キャメロンやめろ」と闘う労働者(4月9日)
 「キャメロンやめろ」と闘う労働者(4月9日)

イギリス

 

 イギリスでは、4月9日、首相・キャメロンが「タックスヘイブン(租税回避地)」を使って金融取引を行ない、利益を手にしていたことを弾劾し、キャメロン打倒を掲げたデモが闘われた。キャメロンは、当初、亡父がパナマで開設したファンドに投資して利益を得ていたことについて明言を避けていたが、4月7日に一転して認めた。これを弾劾する9日の闘いは、ロンドンで労働組合、学生組織、市民団体、イスラム系団体、「戦争阻止連合」など15万人が参加し、「緊縮財政政策の撤回」、「キャメロン政府の退陣」を要求し、「核兵器の増強ではなく雇用、住宅、医療、教育などの人民生活の向上を第一にせよ」「保守党による悪政をゆるさない」「キャメロンは辞任せよ」と書いたプラカードをかかげて市内中心部をデモ行進し、首相官邸の前での抗議行動を展開する闘いとして闘いぬかれた。

 6月24日、イギリスのEU離脱・残留を問う国民投票は、離脱という結果となった。この国民投票に対して、最大の労働組合組織である「イギリス労働組合会議」(TUC)をはじめとする主要労組は、「EU残留」にむけて組合会議やパンフレット配布、ウェブサイトの開設、SNSの活用で組合員に訴えた。

 「ユナイト=地方自治体労働者組合」(UNITE)は、6月27日付けの「憎悪と分断に反対する行動を呼びかける」という声明で次のよう言っている。「国民投票以降、移住者の居住地域や労働者への攻撃が続いており、UNITEはそのような攻撃の実行者を非難するための超党派的な政治的行動を呼びかける。国民投票のキャンペーン中に一部の者たちによって煽られた排外主義と人種差別主義の炎が、われわれの地域に分断の種を蒔くことを許してはならない。……国民投票の論争に毒と分裂を持ち込んだ者たちは、そのことを恥じるだけでなく、今はっきりと姿を現してきた人種差別主義と偏見を明確に非難するべきである。毒が根を張ることを許してはならない。すべての政党は……地域社会に人々を団結させるために必要な資源を提供する機関を確立するべきである。UNITEは、すべての国籍、出身地の労働者と居住地域を支援しつづける。彼ら彼女らは、われわれの組合員であり、同僚であり、同志であり、隣人・友人である。われわれが彼ら彼女らに背を向けることはない」。

 

アメリカ

 

 アメリカでは、大手通信事業の「ベライゾン社」で4月13日以来ストライキに入っていた「米国通信労組」(CWA)「国際電気工友愛組合」(IBEW)の約4万人の組合員が45日間のストライキを闘いぬき、経営側とのあいだで「東海岸のコールセンターで1300人の新規雇用を行う」「アウト・ソーシング(外注化)計画を撤回して、現場技術者の雇用を提供する」「四年間で10・9パーセントの賃上げ」「携帯電話販売店の従業員70人と初めて協約を締結する」「閉鎖が検討されていた中部大西洋側のすべてのコールセンターの存続」「顧客サービス部門における組合員の割合を増やす」「遠隔地への転勤(州間の移動)を強制する計画の撤回」「年金引き下げ計画の撤回」「ニューヨーク市の技術労働者に対する抑圧的な業務監視プログラムの撤回」「傷病手当の削減の撤回」を内容とする協約をかちとった。「ベライゾン社」と労組は、健康保険や年金関連の福利厚生縮小計画、コールセンターの海外移転などをめぐって、昨年6月から交渉を行なってきた。今回の4万人のストライキは、米雇用統計にも影響を及ぼすものとなった。ストに参加する労働者は賃金を受け取らないために失業者としてカウントされるためだ。CWA第一地区委員長は、「組合員の団結と決意は、私たちの仕事を海外に移転、外注化しようとする会社側の提案を打ち負かした。新しい協約は、東海岸全体で1500人の新しい雇用をもたらす。私たちは力を合わせて、人員削減の波を反転させ、強力な労働運動を築く」と宣言している。

 「サービス従業員労働組合」(SEIU)が中心となり、2012年から始めていたマクドナルドをはじめとするファスト・フード店を対象にして、時給を15ドル(約1650円)に上げることを要求する「ファイト・フォー・フィフティーン運動」が、成果を上げてきている。2014年、ワシントン州シアトル市が「時給15ドル」を最低賃金とする条例を制定した。連邦レベルの最低賃金が7・25ドル(約800円)であり、その二倍の額だ。シアトルにつづいて、今年の春には、ニューヨークとカリフォルニア両州が最低賃金を時給15ドルに段階的に引き上げると決めた。職種限定も含めると3州と24都市で15ドルへのアップが決まり、これだけで計1000万人規模の賃金が上がるとの試算もある。アメリカの平均賃金は上がり続け、世界ランキングでは2位となっている。しかし、牽引役は、ハイテクや金融業界の労働者であり、労働者の中では少数派だ。全米労働者の42パーセントは、時給15ドル未満という調査もある。

 アメリカ中西部の最北端、ノースダコタ州西部の油田からイリノイ州までの4州、1890キロにわたる石油パイプライン・「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設計画をめぐって、「スタンディングロック・スー(アメリカ先住民)」の人々が、聖地を破壊し、環境汚染をもたらす工事強行に抗議する闘いを続ける中、9月15日に、「アメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL・CIO)」が、「『ダコタ・アクセス・パイプライン』は、良質の雇用をもたらす」と、建設を支持する声明を発表し、敵対しており、AFL・CIOは、「工事の果てしない遅延によって組合員とその家族の生活と収入の安定を犠牲にするのは不当である」と石油・エネルギー資本の側に立った宣伝を繰り返しているが、一方、「アメリカ通信労組」(CWA)、「全米看護師統一労組」(NNU)は、先住民との連帯を表明している。NNUは、「われわれは、AFL・CIOが利潤のために土地、水、周辺住民の生活を危険にさらしている人々を支持したことに失望している。ダコタ・パイプラインは、地球の未来のためには容認できない化石燃料採掘を促進する。……AFL・CIOの一部の勢力は、組合員の利益と称して、短期的な雇用のために偏狭な立場を押し付けた」と批判しており、CWAは、「労働運動は、尊厳と公正と尊重を求めるすべての闘争に連帯するという単純で力強い原理を根本としている。CWAは、引き続き1パーセントの金持ちたちの利益や企業の強欲に対して闘い、自分たちの地域の環境と文化の破壊に抗議して闘っているスタンディングロック・スーの兄弟姉妹たちと強く連帯する」という声明を出しているのである。

 

ブラジル

 

 「新興市場国」の代表とされたBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の一つであるブラジルの経済成長は、過去25年で最低となっている。米帝が金利を引き上げ、ブラジルに流れていた資金が流出し、原油などの資源価格が低落しているからだ。2015年のGDP成長率は、マイナス3・8パーセントとなり、〝リーマン・ショック〟以来のマイナス成長になっている。2016年もマイナス3パーセント台が予測されている。さらに、インフレ率が10パーセントに達し、労働者人民の生活を圧迫している。個人消費も12年ぶりのマイナスとなった。

 生活苦に直面しているブラジル労働者の怒りをさらに高めているのが「汚職政治」だ。前大統領・ルーラと現大統領・ルセフの二人が、国有石油会社・ペトロプラスを舞台にした「汚職政治」の主役になっている。ブラジルでは閣僚に指名されると、その司法手続きは最高裁判所でしかできないという特権がある。ルーラは、ルセフの後見人として、この特権を利用して「司法逃れ」を策している。ルセフは、ルーラを官房長官に任命し、特権をルーラに与えたのだ。しかし、ルセフに対する弾劾裁判が始まり、8月末には弾劾が可決され、それまで副大統領だったテメルが大統領に昇格した。

 生活苦と「汚職政治」への労働者人民の怒りは高まり、3月13日には、首都サンパウロで140万人、ブラジル全土で300万人がデモに起ち上がった。ブラジル労働者人民の怒りは広がり続け、300万人デモの際には、デモを警備する警官が政権を批判するデモ隊に敬礼するという状況にまで至っている。

 「リオデジャネイロ五輪」開催間近の7月27日には、公務員の給料未払いや病院の閉鎖などに抗議するデモ隊が聖火リレーを先導する車両に石を投げ、聖火が消される事態になった。7月31日には、腐敗政治の打破を掲げた大規模デモが闘われた。ブラジル連邦裁判所は、7月29日、五輪招致を推進したルーラに対する「汚職捜査妨害」での起訴状を受理し、大統領経験者への公判開始が決定した。デモ隊は、ともに労働党(PT)に所属するルセフらへの批判を掲げた。

 一方、「南北アメリカ労働組合会議」(TUCA)、「国際労働組合総連合」(ICTU)は、ルセフへの弾劾に反対する姿勢をとっている。TUCAは、4月20日付けの声明で、「大統領の弾劾を支持した議員の多くは、横領、マネーロンダリング、不正選挙などさまざまな犯罪によって司法機関からの訴追を受けている。腐敗の一掃についてすべての言説は虚偽であり、偽善であり、ブラジル社会にショックを与え、クーデターを正当化するためのものである。この動きの背後にあるのは、この13年間のルラ前大統領とルセフ大統領の政権による社会的・政治的な進歩のための政策に反対する最も保守的、反動的な政治グループと、国際的・国内的な経済的利権、そしてそれを擁護する大手のメディア企業である。弾劾を支持する議員たちは、グロテスクな男優位主義的、人種差別的、ファシスト的な演説の中で、クーデターが成功した後に成立する政権の下での労働組合や社会運動や左派組織に対する攻撃を予告した。この者らにとっての真の敵は労働組合や社会運動なのである。南北アメリカの労働組合は、上院に対してこの議会クーデターの中止を求めているブラジルの労働組合や社会運動団体の呼びかけを支持する」としている。

 9月7日のブラジルの独立記念日には、テメルが大統領就任以来初めて大衆の前に姿を現したが、ブラジル全土の10都市以上で、数万人のデモが闘われ、「テメルは出ていけ」の怒号に包囲された。ブラジルの労働組合と社会運動団体は、テメルが進めようとしている外国人の土地所有の制限の撤廃、社会プログラムの縮小、沿岸にある豊富な油田を含む天然資源の民営化などに反対する運動にむけて合流を開始している。

 

インド

 

 インドでは、9月2日、賃上げ要求とともに、モディ政権による労働法改悪や生産性の低い工場の閉鎖計画に反対するゼネストが闘われ、インドの主要な労組が参加した。ゼネストに起ち上がった労働者が掲げた要求は、「1、物価高騰を抑制する緊急措置」「2、雇用創出のための具体的措置」「3、基本的な労働法規の厳格な適用と違反者に対する処罰」「4、全労働者に対する社会保障」「5、最低賃金を1万8000ルピーに上げ、物価にスライドさせる」「6、年金を月3000ルピー以上に引き上げる」「7、政府が正規職や継続的業務の下請け化を抑制するための政策を実施すること」「8、国営・公営企業への投資の削減をやめること」「9、鉄道、軍事、その他戦略産業への外国からの直接投資の規制」「10、労働法の一方的な改定に反対」だ。参加人数は1億5000万人で、史上最大規模と言われている。「インド労働組合センター」(CITU)によると、ストライキはすべての産業分野で闘われ、炭鉱やその他の鉱山、電力、機械、石油、防衛、電信、金融などの戦略産業でも経営者や監督官庁、政府からの警告を無視して貫徹された。ハリヤーナー、パンジャブなど7つの州では、交通ストや自動車労働者のストなどで完全に経済活動が停止した。左派が州議会の多数を占めるケララ州では、州の首相がゼネスト支持を表明した。西ベンガル州では、警察と州政府与党系の暴力団が労働者の集会を妨害しようとした。また、デモに参加した労働者20人が逮捕された。しかし、ストライキは、弾圧や脅迫をはねのけて貫徹された。労働者は、ハリヤーナー、アッサム、ウッタルプラデーシュなどで警官隊と対決して闘った。ゼネスト前日の9月1日には、ガーガオンの公安当局がマウリ・スズキ労働組合のリーダー12人と交通労組のリーダー22人を逮捕した。デリーでは、無期限ストに入っていた国立病院の看護師たちに市当局が「非常時業務確保条例」(EMSA)を発動し、看護師たちは警察に連行され、数時間にわたって拘束された。

 日本からインドに進出しているホンダ資本が、労働組合潰しを行なっている。ラジャスタン州タプカラの「ホンダ・モーターサイクル&スクーター社」の労働者は、2015年8月に、「全インド労働組合会議」(AITUC)の支援によって、「非正規雇用」労働者の「正規雇用」化を主要な要求にして「ホンダ・モーターサイクル&スクーター・2f・カムガール労働組合」(タプカラ)を結成し、組合登録を申請した。ホンダは、3000人を雇用しているが、そのうち「正規雇用」は466人であり、それ以外は「非正規雇用」である。組合登録の申請後、ホンダは、4人の「正規雇用」労働者と約800人の契約労働者を解雇した。これに対して、ガルガオン・マネサール地区の約50の労働組合が連帯行動に起ち、2月19日に、ホンダの労働者がガルガオンのホンダ本社前で抗議行動を組織した。「マルチ・スズキ」、「RICO」やホンダのマネサール工場の労働者もこの行動に参加した。これに対して警察は、抗議行動の禁止に撃って出ている。デモにおける労働者の主な要求は、「1、拘留中のすべての労働者の釈放」「2、労働者に対するすべてのデッチ上げの容疑の撤回」「3、停職・解雇の撤回と復職」「4、2月16日の警察による暴力に関する公正な調査と暴力をふるった警察官の処罰」「5、組合活動を理由とする脅迫をやめること」である。

 

韓国

 

 韓国労働運動は、昨年11月14日に民主労総が呼びかけ、全国から14万人がソウルに結集し、警察機動隊の殺人的な超高圧放水と対決して闘った「民衆総決起闘争」をひきつぎ、2016年、朴槿恵の「労働市場構造改革」攻撃を粉砕するゼネスト、街頭闘争を連続的に闘ってきた。

 民主労総がこの一年間の闘いで蓄積してきた力と拡大してきた部隊を再び首都・ソウルに集中し、11月12日に朴槿恵政権打倒にむけた「民衆総決起闘争」を設定し、準備している最中の11月3日、朴槿恵の親友とされる実業家・崔順実が「職権乱用」「詐欺未遂」容疑で逮捕された。これによって朴槿恵政権の「腐敗」ぶりが暴露されて以降、「朴槿恵―崔順実ゲート事件」と称される朴槿恵政権の「腐敗」に対する怒りが噴き出した。

 朴槿恵は、崔順実と「マインド・コントロール」と言われるほどに癒着し、ついには「国家機密の漏洩」まで行ない、財閥企業と結託して利権を欲しいままにし、政権そのものを私物化していた。朴槿恵は、「従軍慰安婦問題」での「日韓政府間合意」、「労働市場構造改革」と称した「非正規雇用」拡大と「解雇自由化」、朝鮮反革命戦争にむけて米帝が開発した最新鋭の地上配備型迎撃ミサイル・「高高度防衛ミサイル」(THAAD)の在韓米軍への配備強行などの攻撃に、次々に手を染め、労働者人民の怒りの的になっていた。

 韓国社会では、貧富の「格差」が著しく進行し、「国際通貨基金」(IMF)の調査でも、所得上位10パーセントの富裕層が、「国民所得」全体の45パーセントを稼ぐ状態になっている。一方、時給6030ウォン(約585円)未満で働く労働者は、222万人に及んでおり、若年層の失業率は悪化し、15歳から19歳の若者の失業率は、8・5パーセント、アルバイトをしながら就職活動をしている人達を加えると10パーセントに達している。その上に、激しい「学歴社会」「コネ社会」の深化とも相まって、絶望的な貧困にあえぐ労働者人民、特に若年層の怒りが蓄積していたのである。朴槿恵の支持率は、日を追って下がり、11月に入ると5パーセントとなり、若年層に限ると0パーセントにまで達していた。

 民主労総は、昨年の闘いに対する委員長の指名手配攻撃や逮捕弾圧に屈することなく、「労働市場構造改革」攻撃粉砕―朴槿恵政権打倒の闘いを頑強に闘ってきた。その強力な土台の上に立ち、学生・青年を先頭とする巨万の労働者人民が、朴槿恵打倒にむけて街頭に撃って出た。11月5日のソウルでの20万人デモにつづき、民主労総がかねてから「民衆総決起闘争」を設定していた11月12日には、ついに100万人が街頭に出て「朴槿恵は、退陣しろ」「われわれは、革命をしなければならない」と怒りの声を上げた。その後も、毎週、100万人を超える決起が続き、朴槿恵は、「来年4月辞任」を言い出しているが、韓国労働者人民は「即時退陣」をかかげ、12月3日の朴槿恵即時退陣集会には全国で232万人が起ち上がっている。